Ally Bally Bee

夫のDV・モラルハラスメントから逃れて娘と二人暮らし。全ての人が生きやすい社会になることを願いつつ、今ひとり親 として出来ることをあらゆる角度から考えていきます。

久々読書メモ

森達也の『ぼくらの時代の罪と罰』を読んだ。

印象に残った箇所をメモしておきたい。

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オウムの死刑囚六人が処刑された日、豪雨で新幹線はずいぶん遅れたけれど、ぎりぎりで京都の公演会場に着くことができた。講演が終わってから、一人の年配の女性が話しかけてきた。

「私は昔、熊本の盲学校でボランティアをしていて、子ども時代の松本智津夫麻原彰晃の本名)くんも覚えています」

熊本県八代市に、松本智津夫は五男二女の四男として生まれている。父親は畳職人。幼い頃から目が悪かった彼は、小学校二年生のときに、全寮制の盲学校に入学させられている。かつて僕は、その学校を訪ねて当時の担任にインタビューしたけれど、この女性には初めて会った。

「どんな子どもでしたか」

そう訊ねるぼくに、彼女は「智津夫くんは家が貧しかったため、週末に両親が面会に来ることもほぼなかったし、多くの子どもたちのように帰省することも(お金がないため)できず、寮に一人ポツンと残っていました」と答えた。

「たまたま私が週末に行くと、嬉しそうに駆けよってきました。私の記憶はそれだけです。世間では一片の同情の余地もない極悪人だけど、私の記憶では、甘えん坊の可愛い子どもです。その智津夫くんが今日、殺されました」

そう言ってから、女性はうつむいて黙り込んだ。肩が静かに震えている。僕は何も言えなかった。(森達也著『ぼくらの時代の罪と罰』より)