精神医学とナチズム―裁かれるユング、ハイデガー (講談社現代新書)
- 作者:小俣 和一郎
- メディア: 新書
著者のプロフィールをろくに読まずに読み進み、歴史学者の著書かと思っていたら、著者は精神科医だった。人間の尊厳、安楽死問題などを現代において考える際、ナチズム期の医学をおさえておくのは重要なことと思う。
ナチと関係した精神科医の多くが、戦後何ら裁きを受けることなく社会復帰を果たしているということが興味深かった。
日本も同様だった。満州第七三一部隊で人体実験を指揮した人たちは戦後京都大学教授、京都府立医大学長などに社会復帰している。
そんな状況の中、戦後のドイツで、歴史を見直し、ナチ国家における安楽死問題を80年代に分析してきたのは、研究・教育職の学者たちではなく、各地の病院に勤務する病院精神科医だったという。自らの勤務する病院でナチズム期に何が行われていたのか、患者がどのように殺害され、殺害に加担した医師らはどのような思想の持ち主だったのか、歴史的背景まで分析を行った。
彼らの歴史と真摯に向き合おうとする態度に敬服する。
日本の大学の医学部で医学史の講座を常設しているところは少ない一方、ドイツでは医学部の必修カリキュラムとして医学史があるようだ。
日本の医師となる人にも医学史を是非知って欲しいと思う。